校長通信
ゆくて遥かに
校長通信

2024年9月27日

第313号 谷川彰英先生(本校16回生)のご講演

 9月26日(木)、とんぼ祭記念講演が開催されました。とんぼ祭記念講演は合同協議会主催で、講師の選定、会の企画運営まで、すべて合同協議会長を中心に進められます。今年度の講師には筑波大学名誉教授でエッセイストの谷川彰英先生(本校16回卒)をお呼びしました。

 谷川先生は大学では長年にわたり教育学の教授をされていて、私が大学院で学んでいた頃、社会科教育法を教わった恩師でもあります。同郷、同窓で、さらに互いにお寺の次男であることが懇親会で発覚し、大勢の生徒の中で名前を覚えていただいたというご縁もありました。昨年、谷川先生とご親交のある本校11回生の荻上紘一先生(東京都立大学名誉教授)よりお手紙をいただき、谷川先生の現況とともに、先生が出版された本の学校への寄贈についてご連絡をいただきました。私はそのことを合同協議会長に紹介したことをきっかけとして、合同協議会長と谷川先生との間でのメールのやり取りが始まって、今回の講演会の実現に至ったというわけです。

谷川先生と奥様。後列左が荻上先生、右が筑波大名誉教授の伊藤純郎先生

 私が谷川先生を合協会長に紹介したのは、谷川先生が2018年よりALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病に罹患し、すでに症状が進んでいる現在もなお、ご自分の状況や研究分野に関する本を執筆され続けていること、さらに「生きる」ことについて見つめ続けていることを知ったことによります。そして、谷川先生のお気持ちの中に、今の思いを後輩の高校生の皆さんに伝えたいという考えがあることを荻上さんの手紙の中で感じました。

 谷川先生は二つ返事で講師をお引き受け下さったとのことです。ご自宅のある千葉市からの移動に用いる医療用タクシーの手配も、介護や看護にあたるスタッフの皆さんの手配もかなり大がかりのものです。そして何より先生は発声をされることが不可能となっておられますので、原稿を代読する生徒スタッフを依頼し、事前に読み込んでおかなければなりませんから、事前に読み原稿を作成して送っておいていただく必要もありました。学校としても体育館の出入り口には段差がありますので、スロープの準備も必要になります。あらためて本校のバリアフリーの不十分さを認識したところでもあります。先生のご負担が大きいのではないかととても心配ではありましたが、谷川先生の熱意と周囲の方々の応援、そして合同協議会長のご尽力により、今回の講演会が実現したことを、心より感謝しております。

 谷川先生のご講演「人間は人間を幸福にできる!きっと――裃を脱いで」の内容は、事前にいただきました読み原稿を以下に掲載いたします。

 谷川先生のALSと戦ってきたご様子、ご自分のミッションとして認識し、文字通り命をかけて取り組んでこられた活動について、固唾をのんで聞かせていただきました。その中でも、谷川先生が「生きる!」を選択し、本の執筆をつづける中で、「幸福空間に生きている」と感じられていることに感銘を受けました。「不治の難病と言えども、人間の精神の自由を奪うことはできない」と考え、ALSのステージにいるからこそ「人間の優しさ、強さ、素晴らしさに覚醒し、人と人がつながることの大切さに気づいた」とのこと。自分も「幸福空間」の中で周囲の人々とともに、これからおとずれる晩年を送ることができるのか。利他のために自分のミッションを果たすことができるのか。あらためてこれからの生き方について考えてしまいました。若い高校生の皆さんは、谷川先生のご講演をどのように受け止めたでしょうか。「偉い人になってもいいけど、人に幸福空間を届けられる人になってください。」印象に残る言葉でした。

会場中央に、読み手5人衆。読み込んできてくださった様子がわかりました。上手に谷川先生
最後に校歌を斉唱し、お礼をしました

追伸 「個人と社会のウェルビーイングを目指してほしい」最近、とんぼ祭を始め、何回か生徒の皆さんの活動に対してお伝えしてきた言葉です。「ウェルビーイング」は社会学、経済学の視点で使われる言葉のように私は感じています。これに対して「幸福空間」はより哲学的な、生き様を示す言葉のように私は理解しました。皆さんは、この二つの言葉をどう感じますか。